万葉集
島の宮の上の池にいる放ち鳥よ、人になつかない鳥となって去って行かないでくれ。皇子がいらっしゃらなくても。
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我が日の御子が生きておられたなら、島の宮殿は荒れずにいただろうに。
これまで自分とは関わりのないものと見ていた真弓の岡も、皇子がいらっしゃるので、永遠の御殿としてお仕えし、宿直することだ。
夢にさえ見なかったことなのに、心の晴れないまま宮へ出仕することよ、檜隈の曲がりくねった道を。
天地とともにいつまでもお仕えしようと思いながら、お仕えしてきた心が、かなわなくなってしまった。
朝日の照る佐田の岡辺に群れ集まりながら、私たちが泣く涙はやむ時もない。
皇子がお立ちになった庭の島を見るとき、にわたずみのように流れる涙を止めることができない。
橘の島の宮での勤めでは満ち足りないというのか、佐田の岡辺まで宿直しに行く。
皇子がお立ちになった庭の島を住みかとしている鳥も、人になつかず飛び去ってしまわないでくれ。年が改まるまでは。
皇子がお立ちになった庭の島の荒磯を今見ると、以前は生えていなかった草が生えてしまったことだ。
止まり木を立てて飼ってきた雁の雛よ、巣立ったならば、真弓の岡に飛び帰ってきておくれ。
我らがお仕えする宮殿は千年も永遠に栄えるだろうと思っていた、その私が悲しい。
東の滝のそばの御門に控えてお仕えしているけれども、昨日も今日もお召しになるお言葉もない。
水が伝い流れる庭の池の岸辺の岩つつじが盛んに咲いている道を、またいつか見ることがあるだろうか。
一日に千度も参上した東の大きな御門を、今は入ることができないことだ。
縁もゆかりもない佐田の岡辺に移り住んでしまったら、島の宮の御殿の階段には、いったい誰が住むのだろうか。