金槐和歌集 - 源実朝
大海原のはるかな潮路の上を飛ぶ雁の、波打つように羽ばたく翼に、秋風が吹いている。
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幾重にも重なる雲の上の空を分けて、月の都で雁が鳴いているようだ。
鳴きながら渡ってゆく雁の羽ばたきの風で雲が消えて、夜更けの空に澄みわたる月の光よ。
天の戸を開けるという明け方の空に鳴く雁の、その翼に置いた露に宿っている月の光よ。
大空をふり仰いで遠く見やると、澄んだ鏡のように清らかな月夜に、雁が鳴きながら渡ってゆく。
夜はすっかり更けたらしい。雁の声が聞こえる空に、月が傾いてしまった。
雁が鳴いて、秋風が寒くなってきた。ひとりで寝ることになるのだろうか。夜の衣は薄いのに。
秋風に乗って山を飛び越えてゆく初雁が、その翼で押し分けてゆく峰の白雲よ。
山を飛び越えてくる秋の雁は、ここに来るまでに幾重もの霧をしのいで来たのだろう。
雁は友を見失ってしまった。信楽の、真木の生い茂る杣山に、霧が立ちこめているらしい。
妻を恋い慕う鹿が鳴いているようだ。小倉山の、山の夕霧が立ちこめたのだろうか。
夕方になると、霧が立ちこめてあたりを暗くする小倉山の、その山陰で鹿が鳴いているようだ。
雲のかかる梢ははるか遠くまで霧に包まれ、その高い高師の山で鹿が鳴いているようだ。
月だけをしみじみと趣深いと思って眺めていた夜が更けて、深い山の奥に隠れて鹿が鳴いているようだ。
夜が更けてゆくにつれて、人里近い山の木の間から、月を誘っているのだろうか、ひとり鳴く鹿よ。
まだ夜の明けきらない朝、野の露霜が寒いので、秋をつらいものと思って鹿が鳴いているようだ。