金槐和歌集 - 源実朝
苔の深い岩の間を伝って流れる山水のように、音こそ立てないけれども、ひそかに思い続けて年月が過ぎてしまったことだ。
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思いを漏らしかねている。信夫の奥の山が深いので、木の陰に隠れて流れてゆく谷川の水のように。
せめてそれだけでもと願う事として、神の社に祈らない日はない。
無関係なままでいてもよかったのに、なまじっか、どうしてあの人と親しくなり始めてしまったのだろう。
豊国の企救の長浜のように長々と、夢にさえまだ見たことのない人を恋い続けるのだろうか。
大荒木の浮田の森に長く張りめぐらす注連縄のように、ずっと長く恋い続けるばかりなのだろうか。
石上の布留の高橋が古びてしまっても、昔なじみの人にはずっと恋い続けるのだろうか。
淡路島に通う千鳥がしきりに羽ばたくように、絶え間なく恋い続けるのだろうか。
難波潟の浦よりも遠くで鳴く鶴の声を聞くように、あの人のことをよそながら聞きつつ恋い続けるのだろうか。
田蓑の島で鳴く鶴の声を聞いてからというもの、あの人を忘れることができないでいる。
須磨の浦で海人がともしている漁火がほのかに見えるように、せめてほのかにでもあの人を見る手立てがあればよいのに。
逢坂の関所の小屋はどこにあるのか。山城の音羽の滝の音のように、うわさにばかり聞きながら。
広瀬川は袖が浸るほどの浅さだが、私は深く思い始めたのだ。
神山の麓を流れる水が湧き返るように、心の中に思いは湧き返りながら、口に出さずに物思いをしている私が悲しい。
奥山の岩に囲まれた沼に木の葉が落ちて沈むように、沈みこんでいる私の心をあの人は知っているだろうか、いや知りはしない。
山城の岩田の森の名のように言わなくても、秋の梢が色づいてはっきりわかるように、私の思いもはっきり表れているだろうか。