金槐和歌集 - 源実朝
五月の闇夜で何もはっきりしないなかに、ほととぎすが奥深い峰から鳴きながら出てくるようだ。
詳細を見る
五月闇の神奈備山のほととぎすは、妻を恋い慕っているらしい。鳴く声の悲しいことよ。
五月闇の夜はすっかり更けたらしい。ほととぎすが神奈備山で自分の妻を呼んで鳴いている。
ほととぎすの鳴く声もかいのないことだ。五月闇のなか雨が降り続いて、聞く人もいないので。
山ほととぎすは木の陰に隠れていて目には見えないけれど、その鳴く声のなんと澄んでいることか。
山ほととぎすが奥山を出て、夜更けの月の光の中で鳴いているようだ。
有明の月が沈んでいった木の間から、山ほととぎすが鳴きながら出てくるようだ。
五月雨の降るなかで夜が更けてゆくと、ほととぎすがただ一羽、山のあたりを鳴きながら過ぎてゆくようだ。
五月雨のしずくもまだ乾かない奥山の、真木の葉陰に隠れて鳴くほととぎすよ。
五月雨の雲がかかっている巻向の、檜原の峰で鳴くほととぎすよ。
葛城の高間の山のほととぎすが、はるかな雲のかなたを鳴きながら渡ってゆくようだ。
箱根の山のほととぎすは、向こうの里で毎朝鳴いている。
五月の山の、木々が高く茂る峰のほととぎすが、たそがれ時の空に鳴いているようだ。
ほととぎすは人々みなの名を呼んでいるのだろうか。鳴く声が里じゅうに響きわたっている。
ほととぎすの声はいくら聞いても聞き飽きない。橘の花が散る里の、五月雨のころは。
昔をしのぼうとするわけでもないのに、古びた里の夕べの雨のなかで、橘の花が香っている。