金槐和歌集 - 源実朝
禊をする茅葺きの軒端に引き渡した四手のように、まつわりついて、去りゆく夏を引きとどめたいものだ。
詳細を見る
わが国、大和の国土の神々に、今日の禊にあたって幣を手向けたことだ。
浮ついた人の、はかない身の上の浮ついた行いを、今日の水無月の祓で祓い捨てたというのだ。
つい昨日、夏は暮れたばかりなのに、朝、戸を開けて外に出ると袖が寒い。秋の初風が吹いている。
もの思いにふけって眺めていると袖が寒い。夕月の出ている夜、佐保の川原を吹く秋の初風よ。
夕方になると袖が涼しい。高円山の峰の上に建つ宮に吹く、秋の初風よ。
霧が立ちこめて、秋はまず空にやって来たらしい。吹上の浜の浦を吹く潮風よ。
一面に長く広がって、秋はやって来たのだ。紀の国の由良の岬で、海人が長く張り渡しているうけ縄のように。
すっかり野となって人の跡も絶えてしまった深草の、露の置く住まいに、秋はやって来たことだ。
住む人もいない家だけれど、萩の葉に置く露を訪ねて、秋はやって来たことだ。
秋はもう来てしまったのだなあ。あたり一帯の野にも山にも、露が置いているようだ。
今からはもう涼しくなった。ひぐらしの鳴く山陰に吹く、秋の夕風よ。
吹く風のなんと涼しいことか。おのずから山の蝉が鳴いて、秋はやって来たのだ。
わずらわしいことの多い世を逃れて住む山里に、どうやって探し当てて、秋はやって来たのだろうか。
ひとりで行く私の袖から置くのだろうか。奥山の、苔むした庵の戸へ続く道の夕露は。
天の川で水の泡を逆巻かせて流れてゆく水が速いように、早くも秋が立ったことだなあ。