金槐和歌集 - 源実朝
山吹の花のしずくに袖が濡れて、昔が思い出される玉川の里よ。
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山吹の花の盛りになったので、井手のあたりに出かけない日はない。
玉藻を刈る井手のしがらみに、春をかけて咲いているのだなあ、川瀬の山吹の花は。
玉藻を刈る井手の川に風が吹いたのだなあ。水の泡に浮かんでいる山吹の花よ。
声高く蛙が鳴いているようだ。井手の川の岸の山吹は、今ごろはもう散っているだろう。
何度引き返して見ても見飽きない。山吹の花が散る岸辺に寄せる、春の川波は。
もうあと幾日も春は残っていないのだから、春雨に濡れようとも折り取ろう、山吹の花を。
我が家の八重の山吹は露が重いので、その露を払う袖がしっとりと濡れてしまったことだ。
春雨の露が宿る花を吹く風に、露がこぼれ落ちて、いっそう美しく照り映える山吹の花よ。
私の心をいったいどうしろというのか。色あせてゆく山吹の花に、嵐が吹き立っているのだろう。
おのずと、しみじみいとしいものと見てほしい。春が深まって、散り残っている岸の山吹の花を。
散り残っている岸の山吹の、春も深まった今のこの一枝を、しみじみいとしいと言ってほしい。
春が深まって、嵐もひどく吹く我が家では、散り残っているはずの花もないことだ。
物思いにふけりながら眺めてきた花もむなしく散り果てて、はかなく春は暮れてしまったことだ。
どちらの方へ去って帰っていくのだろう、春霞は。立ち出ていったのに、山の端にも見えないことよ。
過ぎゆく春の形見と思っていたのに、大空の有明の月は、その光も消えてしまった。