蜻蛉日記 - 藤原道綱
我が袖は、引くというので濡らしてしまった。この菖蒲草を、あなたの袂に掛けて乾かしてください。
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蜻蛉日記
引いたという袂のことは存じません。菖蒲草を、あやなき袖に掛けないでいてほしいのです。
蜻蛉日記 - 藤原道綱母
私はまことに、心解けて寝ることなどあろうか。ほととぎすは、物思いのまさる声となるのだろう。
夏山の木の下露が深いので、一方では、嘆きの色も燃え出てしまったのだった。
露によってだけ色が燃え出たのなら、その言の葉を、幾入りの染めとどうして知ることができましょう。
夕暮れの寝屋の端々を眺めると、蜘蛛でさえ、手ずからだけで糸を掛けているのだった。
蜘蛛の掛ける糸こそ不思議なもの。風が吹けば空に乱れるものと知りながら掛けるとは。
露ほどのものであっても、命を懸けている蜘蛛の糸に、荒い風を、いったい誰が防いでくれよう。
但馬の、鵠の跡を今日見ると、雪の白浜のように、白いままでは見まいと思う。
もっともなことだ。言わずに嘆いた年月も、布留の社のように、古びて神さびてしまったのだろう。
夢ほどにちらと見たばかりに惑い続けて、明けるのが遅いことよ、天の戸ざしは。
いかにも葛城山に慣れておられるのでしょう。ただ一言が限りであったのですか。
甲斐もなく年を経てしまったと物思いに沈んで眺めると、袂までも花の色に染まってしまった。
年を経て、どうしてわけもなく、上の空のままで、花のあたりに立って染まったりしたのでしょう。
水隠れの時分とはいっても、菖蒲草の下を刈るように、やはり下心を確かめてみよう。思いが合うかどうかと。
下を刈られる時分も知らないまこも草は、けっして世に生い初めますまい。人が刈るといっても。