山家集 - 西行
茂っていった野原の下草の中から尾花が穂を出して、手招きしているのは、いったい誰を慕っているのだろうか。
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花薄の中を、見当をつけて分けて行く。かすかに見えた道の跡も、今はもう見えなくなっているので。
籬が荒れて、薄ではないけれども、刈萱もまた茂った野辺となってしまったことだなあ。
女郎花の咲く中を分けてきた野辺だと思いたいものだ。女郎花と同じ露に濡れて、共に寝たかのように見えるからには。
女郎花が艶やかに色づいて咲く野辺に寄り添ってみよう。袂に露がこぼれかかるかと思って。
今朝見ると、露が取りすがる重みに折れ伏して、起き上がることもできない女郎花であることよ。
世間並みの野辺の露にはしおれているけれども、私のような涙はかかっていない女郎花であることよ。
花の咲く枝に露の白玉を糸で貫いたように掛けて、手折る人の袖を濡らす女郎花であることよ。
手折らないうちから袖が濡れてしまった。女郎花が露に結ぼれて、思い沈んだように立っている様子を見ると。
池の水面に自分の姿をくっきりと映して、まるで水鏡を見ているような女郎花であることよ。
比べるもののない美しい花の姿を、女郎花は池の鏡に映して眺めていることだ。
女郎花は池のさざ波に枝を浸して、もの思いをする人の袖が涙に濡れているような顔つきである。
思っていた以上に、しみじみと心にしみて聞こえるのは、荻の葉を乱して吹く秋の夕風である。
一様に、木や草の葉先が原の果てまで風になびいて、秋のしみじみとした情趣が目に見えることだ。
牡鹿が臥している萩の咲く野辺の夕露を、少しの間もとどめておかない、荻の上を吹く風であることよ。
あたりの家にまで、あわれを知れとでも言っているかのように、荻の葉音を送ってよこす秋の夕風であるよ。