山家集 - 西行
若菜を摘む今日の日に初子の日が重なったので、あなたの心は若菜よりも小松に引かれ、また人を待つ思いに引かれているのだろうか。
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今日はただ若菜摘みなど思いも寄らずに帰ろう。雪の積もった野辺の若菜であったのだから。
春日野は、年のうちには雪が積もって、春になると若菜が生えてくるのだなあ。
春雨が降る布留野の若菜は、もう生え出たらしい。濡れながらでも摘もう、籠を手に携えて。
若菜を摘む野辺の霞にしみじみと心を動かされる。この霞が、懐かしい昔を遠く隔てていると思うと。
卯杖をつくほどに、七草を摘むたびにこそ老いてしまったことだ。年を重ねるごとに摘んできた若菜によって。
若菜の生える春の野の番人に私がなって、若菜を摘ませながら、この世がつらく罪深いものであることを人々に知らせたいものだ。
つらいこの身で聞くのももったいないと思われるのは、霞の中でむせぶように鳴く鶯の声が響く、曙の山である。
鶯の声が霞の中から漏れ聞こえてくる。人の訪れもまれな春の山里では。
春雨の中で、鶯がさめざめと泣くように鳴いている。竹から落ちる雫は、その鶯の涙なのだろうか。
谷の鶯がすっかり古巣から遠ざかってしまったなら、私が代わりに鳴き、また泣こうとするのだろうか。
鶯は谷の古巣を出て行ってしまっても、私の居所だけは忘れないでいてほしい。
鶯は私を巣の番人として頼りにして、谷の岡辺を出て、よそで鳴いているのだろうか。
春の間だけでも、私の住む庵の友となって、古巣を出て行かないでおくれ、谷の鶯よ。
萌え出た若菜をついばんでいるらしく、その声が聞こえてくる。雉の鳴く野の春の曙よ。
枯れ草と生え替わる春の若草を待ちわびて、野原の枯野で雉が鳴いているようだ。