山家集 - 西行
春の霞が立つように、雉は住みかを立ち出て行ってしまったのだろう。雉の飛び立つ野を焼いてしまったことだなあ。
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片岡で柴から柴へと移りながら鳴く雉よ。その声ばかりか、飛び立つ羽音だからといって高くないことがあろうか。
梅の香を尋ねて来る人をこそ待っていよう。山里の垣根の梅が散らないうちは。
気をつけなければならない。身分の低い者の家の垣根の梅は、わけもなく、ただ通り過ぎるだけの人まで引き止めてしまったことだ。
この春は、粗末な家の垣根に寄り添うようにして、梅の香を尋ねて来る人と親しくしよう。
梅の持ち主は、風が吹き渡るからといって、どれほど嫌がっていることだろう。よそにいる私にとってはうれしい梅の匂いであるのに。
梅の香を谷の奥まったところに吹き集めておいて、ここへ入って来る人にしみこませておくれ、春風よ。
柴の庵に早くも梅の香が匂ってきて、粗末ながら優美な趣もある住まいであることよ。
梅の香に添えて聞くと、鶯の声がいっそう心ひかれる、春の山里であることよ。
作っておいた苔の夜具のような巣で、鶯は身にしみるほどの梅の香に包まれているのだろうか。
ひとりで寝る旅の枕に移り残った香りは、垣根に咲く梅の匂いであったのだ。
なんとなく軒先が慕わしく感じられる梅のために、かつてここに住んでいた人の心がわかることだ。
春雨が軒から垂れ落ち、簾を垂れて家にこもっているこのつれづれの中で思えば、ここは人に知られずに暮らす人の住みかなのだなあ。
なんとなく気がかりなのは、大空の霞の中に消えて、北へ帰っていく雁である。
雁は帰る道に迷っているのだろうか。越の中山を霞が隔てていて。
手紙の端に書き添えた文字かとも見えることだ。列から飛び遅れながら帰っていく雁は。