源氏物語 - 紫式部
恋しさを慰めることのできない形見として、涙に曇る玉の箱であることよ。
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恨みかねて胸の晴れようもない冬の夜に、いっそう固く鎖される関の岩門であることよ。
馴れ古びた我が身を恨むよりは、いっそ松島の海人の衣に裁ち替えてしまおうか。
松島の海人の濡れ衣が着馴れたからといって、脱ぎ替えてしまったという評判を立ててよいものだろうか。
前世からの縁があるのだろうか。あなたのことを心にとどめて、いたわしいと思う一方で、恨めしいとも聞いている。
どうして、世に数にも入らないこの身ひとつを、つらいとも思い、いとしいともお聞きになるのだろう。
人の数に入る身であったなら、我が身のこととして世のつらさを知ったであろうに。人のためにも涙で濡らす袖であることよ。
他人の夫婦仲のつらさをいたわしいと見てはきたけれど、それが我が身に代わることになろうとは思わなかった。
惜しくもないこの身ではあるけれど、これが最後だと思うと、薪が尽きるように命が終わってしまうことが悲しい。
薪を樵るような仏道への思いは今日を初めとして、この世で願う仏の教えの道は、この先も遠く長く続くことだろう。
これが最後となるはずの法会ではあるけれど、それでも頼もしく思われる。幾世にもわたってと結ぶ、あなたとの縁を。
結んでおくご縁は絶えることはあるまい。だいたい、私のほうこそ残り少ない身で、営める法会も少ないとしても。
露が置いていると見えるのもわずかの間のことだ。ややもすれば風に乱れて散ってしまう、萩の上の露なのだから。
ややもすれば先を争って消えていく露のようなこの世で、後れたり先立ったりする間を置かずにいたいものだ。
秋風にしばらくもとどまらない露のようなこの世を、誰が草葉の上のことだけと見ることができようか。
昔の秋の夕暮に見た姿が恋しく思われるのに、これが最期と見えたのは、明け方の薄暗がりの中の夢のようだった。