源氏物語 - 紫式部
ほととぎすよ、あの方に伝えてくれ。故郷の橘の花は今が盛りだと。
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することもなく泣き暮らしているこの夏の日を、まるで私のせいだと言いたげに鳴く虫の声であることよ。
夜が来たことを知って光る蛍を見ても悲しいのは、時を選ばず燃え続けるこの思いなのであった。
七夕の逢瀬は雲の上のよそごととして眺めるばかりで、私は別れの庭に涙の露を置き添えることだ。
あの方を恋い慕う涙には際限もないのに、今日という日を、いったい何の終わりだというのだろう。
人を恋い慕うこの身も残り少なくなっていくけれど、涙のほうは残りが多いのであった。
以前は二人一緒に起きて置いた菊の白露も、今年はひとりの袂にかかる秋であることよ。
大空を行き来する幻術士よ、夢にさえ現れてくれない魂の行方を尋ねてくれ。
宮中の人々が豊明の節会だといって浮き立っている今日、私は日の光も知らないままに暮らしてしまったことだ。
死出の山を越えて行ってしまった人を慕おうとして、その筆跡を見ながらも、やはり迷い乱れることだ。
かき集めて見てもどうにもならない、この藻塩草のような手紙は、あの人と同じ空に昇る煙となってしまえ。
春まで命があるかも分からないのだから、雪の中で色づいてきた梅を、今日のうちに髪に飾ってしまおう。
千年の春を見るはずの花だと祈っておいて、私自身の身は雪とともに古びてしまったことだ。
物思いに沈んで、過ぎていく月日も知らないうちに、今年も、そして私の一生も、今日で尽きてしまうのだろうか。
気がかりでならないが、いったい誰に尋ねたらよいのだろうか、生まれた初めも行く末の果ても知らないこの身のことを。
心があって風が香りを吹き送る、この園の梅に、真っ先に鶯が訪ねてこないということがあろうか。