源氏物語 - 紫式部
花の香に誘われるような身であったなら、風の便りを見過ごしたりするだろうか。
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もともと身に備わった香の匂うあなたの袖が触れるなら、花もこの上ない評判を世に広めることだろう。
花の香を漂わせている宿を尋ねて行ったなら、色に心を寄せる者だと人が咎めるだろう。
折って見たらいっそう香りもまさるだろうかと思う、もう少し色づいてほしい、梅の初花よ。
よそでは枝葉をもぎ取った木だと決めているのだろうか、内には匂っている梅の初花なのに。
人はみな花に心を移しているのだろう。自分ひとりだけが春の夜の闇に迷っている。
折が折だから心を惹かれるのだろう。梅の花の、ただ香りだけに、これほど心が移ることもあるまい。
竹河の橋のたもとと、その一節をわずかに歌い出した、そこに込めた深い心の底を知ってくれただろうか。
竹河を歌って夜を更かすまいと急いで帰られたのは、どのような思いを残していかれたというのだろうか。
桜のせいで風が吹くたびに心が騒ぐことだ。人の心も察しない花だと見ていながら。
咲いたと見るそばから散ってしまう花なのだから、負けたことを深い恨みとも思わない。
風に散ることは世の常だが、枝についたまま色あせていく花を、そのまま平気で見てはいられない。
そういう心があって池の水際に落ちる花よ、泡となってでもこちら側に寄ってきなさい。
大空を吹く風に散ってしまっても、桜の花は自分たちのものだと思ってかき集めて見るのだ。
桜の花をあたり一面に散らすまいとして、覆いつくすほどの袖があるだろうか、ありはしない。
冷たいまま過ぎてゆく月日を数えながら、何とも恨めしく思われる春の暮れであることだ。