山家集 - 西行
油断していて、そりの引き綱もまだ付けていないのに、もう積もってしまったことだなあ、越の国の白雪は。
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降る雪に、道しるべに折っておいた柴の枝も埋もれてしまって、思いもしなかった山で冬籠りすることになってしまった。
雪が深く埋めてしまったことだなあ。あなたが来るかと、紅葉の錦を敷いて待っていた山道を。
私の家に、庭を通る道のほかに別の道があればよいのに。訪ねてくる人の足跡を付けないままで、庭の雪を見ていたいから。
人が来たならば雪が踏まれてしまうと思いながら雪を眺めているうちに、鹿がそのように足跡を付けることもあったのだなあ。
雪に足跡を残していく馬の行方は、どうなろうともかまわない。うれしいことに、雪の中を行く道であなたに会えたのだから。
雪が埋めている庭の呉竹が折れ伏してしまって、ねぐらを探し求めている群れ雀であることよ。
裏返した小忌の衣のように見えることよ。竹の葉先に降り積もった白雪は。
神社の玉垣は、朱色も松の緑も雪に埋もれてしまって、雪景色が趣深い松の尾の山であることよ。
なんということもなく、日の暮れていく中で枝から雪の落ちる音までも、雪がしみじみと心にしみる深草の里であることよ。
雪が降ると、野の道も山の道も埋もれてしまって、遠くも近くもわからなくなる旅の空であることよ。
青根山の、苔の筵の上に一面に降り敷いた雪は、まるで白嶺のような心地がすることだ。
卯の花が咲いたような心地がすることだ。山里の垣根の柴を埋めている白雪は。
季節でもないのに、住まいの周りの垣根に卯の花を、うれしいことに雪が咲かせてくれたことよ。
訪ねてきてほしい、あなた。夕暮れになっていく庭の雪も、足跡のないままよりは、あなたの足跡がついたほうがきっと趣深いだろう。
瀬戸を渡っていく棚無し小舟よ、気をつけよ。霰が乱れ降る激しい風が横切って吹いていく。