山家集 - 西行
唐衣を裁つように、一度離れてしまったままであったならば、重ねて物思いをすることもなかったろうに。
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身分の低い女が扱う糸に露が加わって思うようにならないように、思いに反する恋をすることだ。
折り取りたいなどとどうして思ったりしようか、梅の花よ。もしその香りが心ひかれるものでなかったならば。
通りすがりにひと枝折った梅の香りが、なんと深く袖に染みついてしまったことか。
つれない人に見せたいものだ、桜の花よ。風に素直に従って散るお前の心の弱さを。
花を見る心は花からよそへと離れてしまって、この身にぴったりと付き添っているのはあなたの面影である。
葉陰に散り残っている花だけが、ひそかに恋い慕った人に逢うような気持ちがする。
冷たく途絶えてしまった人を、北へ帰ってもまた戻ってくる雁の心だと思うことができたならばよいのに。
朽ちてただ萎れてしまうのならば、それもかまわない。私の袖も、萩の下枝に置く露になぞらえて。
妻を恋い慕って人目もはばからずに鳴く鹿の声さえうらやむ私の袖は、平然としていられようか、いや涙に濡れずにはいられない。
ひとつの方向に乱れるというのでもない私の恋であることよ。吹く向きの定まらない風になびく野辺の刈萱のように。
夕霧のような隔てなど何もないと思われるのに、実はあなたが隠れていて逢ってくれないのであった。
私の涙を時雨の雨になぞらえたいものだ。紅葉の色と見まがうほどに、袖が紅く染まっている。
朝が来るたびに音を立てなくなってゆく風の音は、夜を重ねるにつれてこのようになってゆくあの人の心なのだろうか。
春を待てば解ける諏訪の湖の氷の渡りもあるというのに、私の氷はいつを終わりとすればよいのだろうか。
私の袖の涙がかかったのだと思って、濡れていてほしい。うらやましいのは、いつもつがいでいる池の鴛鴦である。