山家集 - 西行
筧にも、あなたのつれなさのような氷が張っているのだろうか。心細いことに、水の流れが絶えてしまったようだ。
詳細を見る
思いに堪えかねて、市の中は人が多いので、つてを探し求めて、商人に託す恋文であることよ。
波をしのいで海を渡ることも、どうして厄介だと思おうか。それがあなたに逢うための道だと思うならば。
岩代の松を吹く風の音を聞くと、物思いをする人も、いっそう心が結ぼれてふさぎこんでしまうことだ。
長月の余りの月である閏月のように、あまりにも冷淡な心から、閏月を忌むなどとあの人は言うのであろうか。
口実にしていた御阿礼の神事の頃を過ごしても、やはりあの人は卯月の名のように憂きつれない心のままなのだろうか。
天から降りたもうた神のご利益があるかないかを、つれないあの人のこれからの成り行きで見届けよう。
月を待っているのだと言いつくろってきた宵のうちの、人を待つ心の色を、袖の涙に見られてしまった。
思いもしなかった。遠い空のかなたに見ていた月の光を、涙に濡れた袂に宿すことになろうとは。
月の面に宿っている私の心を、もし見る人があるならば、あわれだと思ってくれるだろう。
月を見ると、いやもう、と思わず嘆かれて、世の中のことばかりが思われ、持ちこたえにくくなってゆく心であることよ。
弓張月の光から外れた物陰で見たあの人の姿の、優美であったことは、いつ忘れようか、決して忘れはしない。
面影がとても忘れられそうにない別れであることよ。あの人が名残を月にとどめていったので。
秋の夜の月は、私の涙のせいだと恨み言を言っているのだろうか。雲もない澄んだ光を、涙でみすぼらしく曇らせてしまうといって。
大空の冷え冷えと冴えわたる空は晴れているのに、私の涙が月を隠す雲となってしまったことだ。
物思いをする心の深さのほどが、思い知られることだ。毎晩毎晩、月を眺めながら夜を明かして。