金槐和歌集 - 源実朝
梅の枝の香りが私の袖に匂ってきた。花のそばを吹き過ぎてくる春の初風によって。
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梅の香を夢を見ている枕もとに誘い運んできて、私が目覚めるのを待っていた春の初風よ。
一夜を寝て迎えたこの明け方の風に香っているようだ。軒端の梅の、春の初花が。
我が家の梅の花が咲いた。春雨よ、ひどく降ってくれるな。散ってしまうのも惜しいから。
梅の花の色がそれと見分けられないほどに、風に乱れて雪が降り続いている。
我が家の梅の初花が咲いた。待っている鶯は、どうして来て鳴かないのか。
春が来るといっそう色が増していく、山城の常盤の森の青柳の糸よ。
青柳の糸で貫いてある白露の玉を、しごいて散らしてしまう春の山風よ。
青柳の糸を伝って落ちる白露を、玉と見るほどに春雨が降っている。
水をたたえた池の堤に挿し木した柳が、この春雨によって芽吹いたことだ。
薄緑色に染めて掛けた青柳の糸に、玉を貫き通すように春雨が降っている。
早蕨が芽を出す春になったので、野辺の霞もたなびいたことだ。
桜の花が散るのを惜しんで、宮仕えの人々が泊まり込みの宿直をしていたことだ。
桜の花は散ってしまったら惜しいだろう。道を行くついでに、折って髪に挿そう。
吉野の山のふもとの木陰に咲く桜の花よ、咲いて立っていると風に知らせるな。
吉野の山の山守は、花を見て、長い春の日を飽きることもなく過ごしていることだなあ。