金槐和歌集 - 源実朝
吉野の山に入ったという山人になってみたいものだ。花に飽きることがあるかどうかと。
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吉野の山にこもり住んだ山人は、花を自分の住まいのものとして見ているのだろうか。
評判に聞く吉野の桜が咲いたのだなあ。山の麓に白雲がかかっている(かのように見える)。
葛城の高間山の桜を眺めやると、夕方にかかっている雲の中に春雨が降っている。
雨が降るからと桜の木陰に立ち隠れると、山桜の花のしずくにしっとり濡れてしまったことだ。
今日もまた花を見て一日を暮らしてしまった。春雨の露が宿る花の陰を、宿として私に貸してほしい。
道が遠いので、今日は山を越えきれないうちに日が暮れてしまった。山桜よ、花の陰の宿を私に貸してほしい。
ほんのしばらくの間と思って来たのに、山里で花を見ては見てとしているうちに、きっと長居をしてしまうだろう。
桜の花が咲いては散るのを見ていると、私はこの山里で多くの春を過ごしてきたのだなあ。
花を見ようと特に思って来たわけでもない私が、花に引かれて深い山路で幾日も過ごしてしまったことだ。
もう今は出立しようと思っているうちに、桜の花が散る木の下で、何日も過ごしてしまいそうだ。
木の下に宿りをするのがよい。桜の花が散るのが惜しいので。旅だからというわけではないのに。
木の下に宿りをすると、片袖だけを敷いて独り寝る私の袖に、花が散りかかり続けている。
木の下で花の下に伏して寝る夜が幾晩も続いて、私の袖には月の光もすっかり馴れ親しんでしまったことだ。
訪ねて行っても、誰に昔のことを問えばよいのだろう。故郷の花も、昔の主人のものではないのだから。
里は荒れてしまった。志賀の花園は、その昔の君が恋しいのだろうか。