源氏物語 - 紫式部
朝霧の中で友を見失った鹿の声を、ありふれたものとしてしみじみ聞いていられるだろうか。
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色の変わった浅茅を見るにつけても、墨染の喪服にやつれているあなたの袖のことが思いやられる。
色の変わった袖は涙の露が宿るところとなっているが、この身にはさらに置き所というものがない。
秋霧の晴れない空で、いっそう強く、この世は仮のものだと雁が鳴いて知らせているのだろう。
父上が亡くなって岩の懸け道の行き来も絶えてしまってから、松に積もる雪をも何と思って見ればよいのだろう。
せめて奥山の松葉に積もる雪とだけでも、亡くなった父上を思うことができたならよかったのに。
雪の深い山の懸け橋には、あなたのほかに踏み分けて通ってくる跡を見ることがない。
氷に閉ざされて馬が踏み砕いていく山川を、道案内をするついでに、まず私が渡ってしまおうか。
立ち寄るべき木蔭と頼みにしていた椎の木の根もとは、いまは空しい床になってしまったことだ。
父上が手折ってくださった峰の蕨と見ることができたなら、春が来たしるしとも思われただろうに。
雪の深い水際の小芹を、誰のために摘んで喜べばよいのだろう。親のない身であってみれば。
人づてに見ただけだったお宅の桜を、今年の春は霞に隔てられることなく、手折って挿頭にしたい。
どこと思って訪ねて手折るのだろう。墨染の色に霞みこめられている、この家の桜を。
総角結びに末長い約束を結びこめて、同じ所で縒り合わさるように、あなたと一つになりたい。
貫きとめることもできずこぼれる、もろい涙の玉の緒に、末長い約束をどうして結べるだろう。
山里のしみじみとした情趣が思い知られるさまざまな声に、あれこれの思いが集まってくる明け方であることよ。