山家集 - 西行
鶉が伏している刈り取った後の田に、ひこばえの稲が生え出て、それをほのかに照らす三日月の光であることよ。
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嵐が吹き越えてゆく峰の木々の間を分けてきて、谷の清水に宿る月の光であることよ。
汲んだからといって濁るような岩井の水ではないけれども、汲めば、そこに宿っている月の光が揺れ乱れるだろうか。
ひとりで住む庵に月の光が差し込んでこなかったならば、何が山辺の暮らしの友になっただろうか。
訪ねて来て言葉をかけてくれる人もいない住まいに、木の間を漏れる月の光が差し込んでくることだ。
柴の庵は住みづらいこともあったであろうに。もし連れ添ってくれる月の光がなかったならば。
光が消えて、端山の月は木の間から漏れても来ない。谷は梢に積もった雪のように白く見えて。
雲にただ今宵の月を任せてしまおう。嫌がったところで晴れるものではないのだから。
月を見るよその所の人々も、さぞかし雲を嫌っているであろう。雲よ、ただこの空にだけ漂っていよ。
晴れ間もなく雲が空いっぱいに満ちてしまった。月を見ることはあきらめてしまおう。
濡れはするけれども、雨の漏るこの住まいが嬉しいのは、晴れたあとに入り込んでくる月の光を思うからであった。
分け入って、いったい誰が人を訪ねてくるだろうか。岩陰の草の茂る、この山路を。
山里では、谷の筧の水が途切れ途切れになると、水を恋う水恋鳥の声が聞こえてくる。
つがいではないけれども、水に映ると自分の影を友として、鴛鴦が住んでいたことだ。澄んだ山川の水に。
列をなさずに風に乱れて鳴く雁の、その声が乱れて聞こえてくることだ。
なかなか晴れない山路の雲に埋もれて、苔の衣の袂は霧に湿って朽ちてしまったことだ。