山家集 - 西行
つづらの這う端山は木の下まで茂っているので、そこに住む人はどれほど木の陰で暗いことだろう。
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熊の住む苔むした岩山は恐ろしいので、なるほど人も通わないわけである。
音を立てて岩に飛び散る霰こそが、蓬の生い茂る窓の友となったことだ。
しみじみと、まるで何かが訪れたかのように聞こえたことだ。枯れた楢の小枝の落ち葉の音は。
柴で囲った庵のなかは、主が旅立って留守なので、素通りしてゆく風さえも、とどまらないことだ。
谷風は戸を吹き開けて入ってくるものなのに、どうして嵐はわざわざ窓を叩くのだろう。
春もまだ浅く、篠竹の垣根に吹く風は冷え冷えとして、まだ雪の消えない信楽の里であることよ。
水の流れの淀む天の川の岸に波も立たないで、月を眺めているのだろうか、さへさみの神は。
その光は、曇りのない月が磨いたのであった。稲の葉にかかって朝日に輝く露の玉は。
磐余野の萩の茂みが途切れたあちこちの隙間に、児手柏の花が咲いたことだ。
袖に移った萩の花の色もあせて、その袖もほころびてしまった萩の花摺りの衣であることよ。
小笹の原の葉先の露は玉に似ていて、石ではなく玉ばかりの山を行くような心地がする。
真木を割る飛騨の工匠が仕事に出てきたのであろうか。村雨が通り過ぎて、笠を取る笠取山であることよ。
川の合流する所よ、真木の茂る麓の山に石が立ち並んで、そこで働く杣人はどれほど涼しいことだろう。
雪が解けて、しきりに踏み荒らされたかささきの道が、行きにくい足柄の山であることよ。
雪の上を渡るための目じるしの竿を立てたのであろうか。待ちかねていた越の中山では。