山家集 - 西行
この世で親しく眺めてきた月であるから、来世で迷うであろう闇も、照らさないことがあろうか、きっと照らしてくれるだろう。
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秋風がとりわけ、琴の音とともに身にしみる今夜であることよ。月までが澄んで映っている庭の様子のために。
住む人の心が、くむように思いやられる、澄んだ泉であることよ。その人は昔をどのように思い出しているのだろうか。
これからは昔語りには気をつけよう。不思議なほどに、涙で袖がぐっしょりと濡れてしまったことだ。
長年慣れ親しんできた都も、すっかり疎遠になってしまって、悲しさがいっそう加わる秋の暮れであることよ。
あなたが去ってしまったら、月の出を待つというときにも、東の方の夕暮れの空をはるかに眺めやることだろう。
大原ではまだ炭焼きの竈にも慣れていないと詠んだという人を、今ここにいさせたいものだ。
今でさえこのようであると詠まれた滝の流れの、その頃まではまだ昔の姿のままであったのだろう。
まぎれて聞こえなかった窓の嵐の音がやんで、夜が更けたことを告げる水の音であることよ。
玉を磨いたような露が枕に散りかかることだ。夢を覚ます竹を吹く嵐のために。
峰から吹き下ろす松の嵐の音に、さらに響きを添える夕暮れの入相の鐘であることよ。
夕暮れ時よ。檜の茂る峰を越えて行くと、ぞっとするほど寂しく聞こえてくる山鳩の声よ。
波の近い磯の松の根を枕にして、心悲しいのは今夜だけであろうか、いや、この旅の夜ごとそうなのだ。
住吉の松の根を洗う波の音を、梢の上まで掛けて響かせる、沖から吹く潮風であることよ。
山家集 - 寂然
離れて過ごしてきたあの年月もあったというのに、この短い別れにこれほど名残の多い、峰にかかる秋霧であることよ。
慕わしく思われたあなたの名残をこそ、じっと眺めていたのだ。あなたが帰っていったあとに立ちこめる、峰の秋霧として。