山家集 - 西行
遠く思いを馳せる高い峰の雲が花であるならば、花が散らずにいる七日の間は、その雲は晴れないだろうと思う。
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落ち着いてくれ、わが心よ。これまでさんざん心を尽くしながら、花のためにこそ春を待っていたのだから。
風越の峰に連なって咲く花は、いつが盛りということもないまま散ってしまったのだろうか。
世のならいとして風が誘って散らそうとしても、山桜よ、尋ねてゆく私を待ち受けてから散れ。
春には、裾野を焼く煙こそが、吉野山の花を隔てる霞であったのだ。
これからは、花を見ようとする人に言い伝えておこう。俗世を逃れて山に住めと。
花見にと、人々が群れをなしてやって来ることだけが、惜しむべきこの桜の罪なのであった。
花も散り、人も来なくなるときには、また山あいの地で静かに過ごせるだろう。
年を重ねて同じ梢に咲き匂っているけれども、花こそは人に飽きられないものだったのだなあ。
雲と見まがう花の下で眺めると、月はおぼろに見えることだ。
花の色が声に染みこんでいるのだろうか。鶯の鳴く声がいつもとは違って聞こえる春の曙よ。
もしたまたま花の咲かない年の春があったなら、何を頼りにして日々を過ごせばよいのだろう。
もしこの春の花を待ち迎えることのできない我が身であったなら、何をこの世の思い出にすればよかっただろう。
とりわけ心して見よう。老いた木は、花までもしみじみと哀れである。あと何度、春にめぐりあえるだろうか。
桜の木の下は見物の人で混み合っている。桜の花よ、私は離れたところから眺めて、その香を名残惜しく味わおう。
吉野山の崖沿いの道を伝って奥深く尋ね入り、花を見たあの春は、もうひと昔も前のことになったのだろうか。