山家集 - 西行
春風が吹き散らす花の吹雪に埋もれて、雪に閉ざされたように先へ進んで行くこともできない志賀の山道よ。
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花と入り乱れて見分けのつかない峰の雲を吹き払うとしても、花だけは散らさない嵐であったならよいのに。
吉野山の花を吹き連れて峰を越えていく嵐は、よそから見れば雲のように見えることだろう。
誰にも惜しまれない私のような身でさえ、この世に長らえているというのに、ああ、なんと意地の悪い花の心であることか。
このつらい世には花をとどめておくまいと、春風が花を散らすのは、実は花を惜しんでいるからなのだった。
一緒に私も連れて散っておくれ、花よ。私もまた、このつらい世を厭う心を持つ身なのだ。
ただ考えてもみよ。花が散ってしまった後の木の下で、何を陰とし、頼りとして、我が身は住めばよいのだろう。
眺めようとして、花にもすっかり慣れ親しんでしまったので、散って別れることがいっそう悲しいことだ。
いくら惜しんでも、未練の気配も見せずにはかなく散っていく花は、その心が賢明なのであった。
梢を吹く風の心はどうしようもない。その風に素直に従って散る花のほうが恨めしいことだ。
どうして散らずにいてくれとまで思えようか。ただ、しばらくの間だけでもと慕うこの嘆きを知っておくれ、花よ。
木の下に散り敷いた花に今夜は埋もれて、いくら見ても飽きることのない梢の花を思いながら夜を明かそう。
木の下で旅寝をすると、吉野山では、春風が花びらの夜具を私に着せかけてくれる。
雪かと見えるほど風に桜が乱れ散るので、春の夜の月は、花の笠をかぶっているかのように暈をまとって見える。
散る花を惜しむ心がこの世にとどまって、また来る春に花を咲かせる種となるのだろうか。
春が深まったので、枝も揺れないのに散る花は、風のせいではないのだろう。