山家集 - 西行
山が深いので、苔の筵の上に座って、何の屈託もなく鳴いている猿であることよ。
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山が深いので、岩から滴り落ちる水を溜めておこう。ぽつりぽつりと落ちる橡の実を拾い集める間に。
山が深いので、親しみやすい鳥の声はせずに、なんとなく恐ろしげな梟の声ばかりが聞こえることよ。
山が深いので、木々の茂って暗い峰の梢から、ものものしく吹き渡ってゆく嵐であることよ。
山が深いので、薪を伐っているらしいと聞こえてきて、あたりをにぎわわせている斧の音であることよ。
山が深いので、分け入って目にするものはすべて、しみじみとした哀れを誘う景色であることよ。
山が深いので、なれ親しんだ鹿がすぐ近くにいることで、世間から遠ざかった程度が自然と知られることだ。
山家集 - 寂然
哀れさは高野と同じだと、あなたも思いやってください。秋の暮れ方の大原の里を。
一人で住む私にとって、朧の清水が友としては月を澄ませて住まわせている、大原の里であることよ。
炭竈からたなびく煙が一筋であるように、ひたすらに心細いのは大原の里であることよ。
なんということもなく露がこぼれ落ちる。秋の田で鳴子を引き鳴らす大原の里では。
谷川の水の音は、まるで枕もとに落ちてくるような心地がして、とかく夜中に目覚めがちな大原の里であることよ。
粗末に葺いた草の庵の哀れさから、袖に涙の露を置く大原の里であることよ。
山風に吹かれて、峰の小さな栗がはらはらと、庭に一面に落ち敷く大原の里であることよ。
屈強な男が、薪にあけびを差し添えて、日が暮れると帰ってくる大原の里であることよ。
葎の這う門は木の葉に埋もれて、人も訪れてこない大原の里であることよ。