山家集 - 西行
どうせなら、咲きはじめた時から標を張っておいて、他人に折られない花だと思うことにしよう。
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朝露に濡れた袖を干しているうちに、すぐにまた夕立が降るように、涙に濡れる我が袂であることよ。
待ちきれずに、夢にでも見えるかとまどろむと、目を覚ませとせき立てる荻の葉を吹く風であることよ。
包み隠しても人に知られる恋なのだろうか。大井川の堰の隙間をくぐって漏れる白波のように。
せめて逢うまでの命があればよいと思っていたのに、逢った今となっては悔しいことであった我が心であることよ。
これからは、逢わずに物思いをすることになっても、後でつらい思いをさせる人に、身をまかせることはすまい。
いつかはそうしたかと答えることがいまいましいことだ。私の思いを知らないと、恨み言を聞かせたならば。
袖の上の涙が人目に知られてしまった時までは、取り乱さずに落ち着いていた我が涙であったことよ。
あいにくなことに、人目も構わずに流れる涙であることよ。こらえきれない心で忍んでいる甲斐もなく。
荻の葉音は、物思いをしている私なのだろうか。どういうわけで、荻からこぼれる露が私の袖に置くのだろう。
草が茂っているので、沢に縫いとめられたように伏している鴫が飛び立つように、どうしてよそよそしく離れてゆく人の心なのだろう。
かわいそうにと、あの人の心に情けがあってほしい。取るに足りない身だからというわけではないこの嘆きを。
どうしたらよいのだろう。つらい浮名をすっかり世間に立ててしまって、それでも私の思いを知らないあの人の心を。
忘れられるであろうことは、前々から覚悟していた。それなのに、どうして今さら私を驚かすように流れる涙なのだろう。
あの人に訪ねてもらえないことも、自分から訪ねない心の冷たさも、つらさは変わらない気持ちがすることだ。
冷たいであろう人のために、自分の身を恨むまいと思っていたことさえ、かなわなかったことだ。