山家集 - 西行
どのように思い続けて恨んだらよいのだろう。ひたすら冷たいだけのあなたではないのに。
詳細を見る
恨んでも、かえって心を慰めていよう。冷たいからあの人が逢わないのだと思えば。
ほかとの縁を絶ってあなたに逢う人は、いったいどういう人なのだろう。私も同じこの世に生きているのに。
何かにつけて捨て去りたいこの世ではあるけれど、あなたが住んでいることにも心が引かれてしまうことよ。
何事にかこつけて、この世を厭えばよいのだろう。つれなかったあの人が、今日は嬉しく思われるのだから。
逢ったと見たその夜の夢が、覚めないでいてほしい。長い眠り、すなわち死はつらいものであろうけれども。
山家集 - 院少納言局
一巻ごとに玉を転がすような美しい声の響いた手紙、その類いは、またとこの世にもあったのですね。
ええ、それならば、光はなくとも玉だと言ってくださったのだから、言葉についた塵は、あなたが磨いてほしい。
松山の波に流されてやって来た舟が、そのまま空しくなってしまったように、院はそのままお亡くなりになってしまったことよ。
松山の波の様子は昔と変わらないだろうに、院は跡形もなくおなりになってしまったことよ。
ええ、わが君よ、たとえ昔の玉座であったとしても、このようになってしまった後では、何になりましょうか。
曇りのない山の上から、海に照る月を見ると、島々こそが、氷の張りつめたような海面の切れ目であったよ。
これからは命を厭うまい。命があればこそ、このような住まいのしみじみとした趣も知ることができるのだから。
長い年月を経て、私の死後を弔ってくれ、松よ。跡を偲んでくれるはずの人もいない身なのだから。
ここをまた私が住みにくく思ってさまよい出てしまったならば、松はひとりぼっちになってしまうのだろう。
松の下だけは、雪の降る折にも変わらぬ緑の色なのだろうか。山路はどこも真っ白に見えるのに。