山家集 - 西行
伊勢島よ、月の光の照らすさひかの浦では、明石とは比べものにならないほど明るく、月影が澄んでいることだ。
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池の水に底まで清く澄んで映る月の光は、波の上に一面に氷を敷きつめたようであることよ。
月を眺めながら明石の浦を漕ぎ出していく舟は、あまりに明るいので、波の寄せる夜だとは思わないのだろうか。
岸から離れた白良の浜の沖の石を、砕くことなく洗っている、月の光に照らされた白波よ。
思い悟ってみれば、千里を照らす月の光も物の数ではない。光の届かない隈も、月にはあらせまい。
世間一般の秋の趣はみな月に包ませておいて、それを吹きほころばせる風の音であることよ。
この世に生きてきた思い出は何なのかと、問うてほしいものだ。そうしたら人に、それは月だと教えよう。
思い知ることだ。世間では隈なく照っている光であっても、私にとってはそうではない。涙に曇る私の目に映る月の光は。
この世を憂き世だとばかり思い通すことはするまい。思い返してみれば、月がこのように澄んでいる大空なのだから。
月の夜に、そのまま私の友となって、どこであってもよいから、人の知らない住みかを教えてくれ。
信楽の杣山の大路は、人の通いをとどめてくれ。初雪が降ったのだ、向こうの山の山人よ。
急がなかったならば、雪に我が身は引き留められて、山辺の里で寺を待っていたことだろうか。
もののあわれを解して、誰が雪を分けて訪ねて来るだろうか。山里の、雪が降り埋めている庭の夕暮れに。
湊川で、苫に雪の吹きつける連れ立った舟は、互いにつなぎ合いながら夜を明かしたことだ。
筏士が波に沈んでいくように見えたのは、筏に雪を積もらせながら川を下っていたのであったよ。
梢にたまっている雪が、もし春の花であったならば、この山里はどれほど人にもてはやされたことだろう。