山家集 - 西行
大原では、芹生の里へ通じる道だけを雪の中の道として開けておいて、ほかの四方には人も通わないことだ。
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すっかりは晴れきらないで二村山にかかっている雲は、比良の山の吹雪の名残であったよ。
雪をしのぐ庵の軒端をさし添えて広げ、雪の上の足跡をたどって訪ねて来る人を、引きとどめよう。
悔しいことに、雪の深い山の奥へと分け入ることもしないで、麓でばかり年を重ねてしまったことだ。
昔の恋人が庭に植えた唐なずなよ。いったい誰に馴れ親しめといって育てているのだろうか。
紅のように表に出るはずの思いの色は、よそからは知られないので、まずは筆によってこそ、恋文に思いを染めはじめたのだ。
さまざまの嘆きを、投げ木を積むように身に積み重ねておいて、いつになったら鎮まる恋の思いの火なのだろうか。
あなたを、どうにかして、細かに結い上げた繁目結いの目のように、立ち離れることなく、いつも並んで見ていたいものだ。
恋をしていても、平然として変わらない人だと、人に言われたいものだ。身に従わない心などあるだろうか、いや、ありはしない。
思い出してくれ。三津の浜松のように待ち続け、あなたがよそよそしくなったと、志賀の浦波が立つように涙の波の立つ私の袂を。
疎遠になってゆく人は心が変わってしまうとしても、自分の方からは、人に心を隔てられるようなことはするまい。
月をつらいものと思って眺めながらも、思うことだ。あの夜だけの光だと見ていただろうか、いや、そうではなかった。
私はただ、裏返すことなくそのままに着ていよう、夜の衣を。あの人と共に着て寝たことを思い出しながら。
川風の中で千鳥が鳴いたという冬の夜は、実は私の恋の思いそのものであったのに。
さあ、それならば、栄える盛りを思うのも、もう長くはないだろう。藐姑射の峰の花には、なれ親しむまい。
山深くへ、心はもう前々から送っておいた。身こそ、この憂き世をすっかり出てしまうことはできないけれども。