山家集 - 西行
月になんとかして昔のことを語らせて、その光に寄り添いながら、立ち離れることはするまい。
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ここを憂き世だと思うこともないままに、わが身は過ぎてしまったことだ。月の光にも、なれ親しみながら。
雲につき従って、さまよい出てばかりゆく心を、山につなぎかけてでも、とどめようと思う。
世を捨ててからは、俗事にまぎれていたころのことはもう覚えていないのに、心だけは、なおこの世にとどめていたことだ。
塵に汚れることなく、ゆがんでいる道をまっすぐに直して、道を行く人のために、世に仕えたいものだ。
人並みであろうとする思いさえ見えない世の中であるので、行く末にはさぞかし、大幣のように頼みがたい空模様となるのだろう。
深い山は、苔むした岩を畳み上げて、過ぎ去った遠い昔を納めているのだなあ。
年老いてしまった心こそ、やはりしみじみと哀れである。力の及ばないこの身にも、世の中のことを思わせるのだから。
はかないことだ。千年も続くと思っていた昔をも、夢のうちに過ごしてしまったこの世は。
蜘蛛の糸に貫き通した露の玉を、掛けて飾っているような、はかない世であることだ。
現実をも現実だとまったく思えないのだから、夢をどうして夢だと思うことがあろうか。
露でないものも、みな跡形もなく消えてしまうのに、とりわけどうして、露ばかりをはかないものと言い置いたのだろうか。
灯火の芯をかき立てる力もなくなって、わずかに残る光が消えるのを待つばかりの我が身であることよ。
水の干上がった池にわずかに潤うしたたりを、命の頼みとしている魚とは、いったい誰のことか。
汀の近くに引き寄せられてくる大網の中には、いくつもの瀬に住んでいた生き物たちの命がこもっている。
穏やかに安らかに死んでいくのだなと思い悟ると、心がすぐに、そうだと答えることだ。